「それで?」
「うん、やっぱりそんな気分になった。この作品を見て、僕はいくつかの事を思い出した。大きくは3つ (僕は何かを話す時 に数を示すのが好きなのだ)。一つは”AlteredStates”注1という映画。もうひとつはミレイの”オフィーリア”注2という絵画。そして最後が前田青屯の”石棺”注3だ。ほんとはG&Gとか他にもあるけど。」

「どうして?って聞いて欲しいんでしょ。」
「そう、まさに。自分で思いついたことは誰かに話すと、自分の発した言葉によって整理され、強化される、ということ。黙ってたって知性は進化しない。おっと話がずれた。今言った3つは共通点がある。それは『人が横たわっている』。人が横たわる図像なんて死ぬほどあるじゃん!というツッコミは無し。だって僕の脳の中からピックアップされたのはそのイメージなんだし、それに対して自分で解釈したいんだから。横たわる人がイメージさせるものは死だ。しかしこの3つの連想は死にいたるプロセスを示しているような気がする。「アルタードステーつ」はアイソレーションタンク注4という装置を使って外的刺激を遮断し、人間の内的宇宙を探索する映画と荒っぽく言ってしまおう。オフィーリアは悲しみのあまり狂い溺死する(この絵はまだ死んではいない)、石棺は死んだ武人が横たわっている。この「生→死の直前→死」という3つのプロセスをこの作品は含んでいるような気がしたんだ (と話しながら思った)。このご時世に単純に死のシーンを作るとは思えないし、何かし らのメッセージはあるにせよ、僕はそんな風に感じたんだ。そしてそのアウトフォーカスな画像と焼け焦げた紙もフェティッシュな部分でぐっとキタな。」

 

注1:アルタードステーツ AlteredStates1981年 ケン・ラッセル監督。ジョン・C・リリー博士による感覚遮断実験での変性意識状態 (Altered state of consciousness)をモデルとした映画
注2:John Everett Millais 「Ophelia」 1851-52年
注3:前田青邨「石棺」1962年 東京國立近代美術館所藏 ここで使用されている「朱 」は紅、緋より、さらに黄みによった赤で、水銀と硫黄の化合物である。
古代から権威の象徴となる色であり、朱塗りの漆器の色にあたる。「丹朱」は、古来魔よけの力を持つと考えられた。棺内部の赤色は印象的である
注4:アイソレーションタンク。人間への外界からの刺激を可能な限り排除し、瞑想などをするための装置。元々はリリー博士が入鹿の脳をシミュレーションするために開発したと言われる。光の全く入らないタンクの中に、体温と同じ水温の水をいれ、そこに人が横たわる。溶液は人間の比重と同じにされていて、室温も同じ。つまり水も空気も境界があいまいで、水に浮いた状態で光もなく、外界の刺激がほとんどない状態が作り出される。